大学卒業後、単身カンボジアに渡り、地元のハーブを使ったボディケア製品の販売を手がける会社を立ち上げた篠田ちひろさん。
Waris共同代表の田中が雑誌記者時代、篠田さんを取材したことをきっかけに親交を深めたという2人。連載第1回は、篠田さんのキャリアの変遷について詳しくお話をうかがいます。
「一度きりの人生、やりたいことをやろう」と就職内定を辞退してカンボジアへ
田中美和 ちひろちゃんとは、長いお付き合いになりますね。私は、プライベートでフィリピンやカンボジアの子どもたちを支援する活動をしているのですが、その活動をきっかけに、カンボジアで起業していたちひろちゃんと知り合って。
篠田ちひろさん(以下、敬称略) そうでしたね。当時女性誌の記者をしていた美和さんが、私が立ち上げた「クルクメール」を取材して記事にしてくださったおかげで、製品の認知度も高まったんですよ。
ちひろちゃんは日本の大学を卒業して、一般企業には就職せずにカンボジアで起業したんですよね。
そうです。就職活動をして内定ももらっていたんですが、あるとき「一度きりの人生、やりたいことをやろう」と思い立って内定を辞退しました。大学卒業後、イギリスで語学を学びながら、8ヶ月間インターンをしました。フェアトレードのプロダクトを集めてイベントをする会社で、マーケティングの知識を身につけました。
クルクメールボタニカル代表 篠田ちひろ
青山学院大学経営学部卒業。2004年、大学生のときに初めてカンボジアを訪問。貧しい中でも笑顔で暮らす人々の姿にひかれて渡航を重ね、地域に根ざした「仕事」を創りたいという思いを抱くようになる。2009年、クルクメールボタニカル社を創業。カンボジアの伝統医療を取り入れたバス製品、アロマ製品の販売や、スパの運営を手がける。
地元の素材を使った「ものづくり」で、雇用の場を創出したい
その後、日本に戻らずカンボジアに渡られたのですよね。なぜカンボジアだったのですか?
カンボジアに行くことは、イギリスに行く前から決めていたんです。学生時代に旅行でカンボジアを訪れたことがあるのですが、経済的には決して豊かではないのに、暮らしている人が皆ニコニコして幸せそうで。この国のために何かしたいと漠然と考えるようになりました。
旅行で訪れた土地が気に入ったとしても、「海外で起業しよう」と決意して実行に移すまでには大きなハードルがあると思うのですが、その点は抵抗がなかったんですか?
高校生ぐらいのころから、「自分の知らない世界を見たい」という強い好奇心があったんです。大学時代に現地を訪れ、地元の素材を使った「ものづくり」を通じ、教育を受けていない女性を雇用して仕事の場を創りたいという思いをあたためていきました。「途上国で作ったものだから」と同情して買ってもらうのではなく、「かわいい」「欲しい」と自分が心から思えるものを作りたかったんです。イギリスで語学とマーケティングを学んだのも、そのためでした。
なるほど! ちひろちゃんは知的好奇心が強いことに加えて、思いを行動に移すスピードが速いですよね。
株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
日経ホーム出版社・日経BP社で約10年編集記者。特に雑誌「日経ウーマン」で女性のキャリアを広く取材。調査・取材で接してきた働く女性はのべ3万人以上。女性が自分らしく働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスを経て、2013年ハイスキル女性と企業とのフレキシブルなお仕事マッチングを行う株式会社Warisを共同設立。共同代表。著書に「普通の会社員がフリーランスで稼ぐ」がある。
専門家の知恵を借りながら、1年かけて起業を準備
23歳でカンボジアへ渡って、まずはどんな仕事をされたんですか?
最初はコネも人脈もなかったので、まず、現地で働くことにしました。短期契約で、雑貨屋さんのオープニング責任者の仕事をしたんです。仕事をした経験もなく、右も左も分からないまま、スタッフマネジメントや店舗作りなど、必死に取り組みました。そんな中で、現地のハーブを使ったアロマやスパ製品を商品として扱ってはどうかというアイディアが浮かんだんです。それから1年ほどかけて、起業の準備を進めました。
「クルクメール」のスパ製品は、バスソルトや入浴剤など、伝統医療の知識も活かした専門性の高い商品ですよね。専門知識のない、20代前半の女性が開発をするのは大変だったと思います。
私たちはフリーランスの方から、独立にあたって「準備はどうしよう?」「資金はどこから調達すればいい?」などの相談を受けることが多いのですが、ちひろちゃんはどこから手をつけたのですか?
アンコール王朝時代から続く、伝統医療の知恵を取り入れたバスティー(ハーブの入浴剤)【写真
まずは半年ほどかけて商品のコンセプトを考え、市場調査をして、その後会社登記をしました。カンボジアでは、外国人でも会社を設立することができるので、アジアの他の国に比べ、比較的参入障壁が低いんです。それから半年ほど時間をかけて商品開発をしました。
起業の資金はどうされたのですか?
半分は自己資金、残りは両親に借りました。カンボジアの物価は日本の10分の1程度ですし、当初はお店を構えていたわけでもないので、コストはそれほどかかりませんでした。
商品開発にあたって、どなたかにアドバイスをもらいましたか?
はい。3人の方にサポートしてもらいました。1人はパッケージを作るデザイナー。旅行先で知り合った友人です。2人目は商品開発のアドバイザー。化粧品会社を経営されている方で、私がブログを見てメールを送ったんです。3人目は学生時代にインターンをしたコンサルティング会社の先輩で、事業計画書も書けない私に、マーケティングや戦略のアドバイスをしてくれました。
ちひろちゃんは当時から、事業に必要なスキルや専門知識を持った方にアプローチして巻き込む力を持っていたんですね。
フリーランスとして、組織に所属せずに働く人たちにとっても、「頼る力」「巻き込む力」は欠かせないものだと思います。経営者としてのスタッフマネジメントのお話も、ぜひじっくり聞かせてください。
(第2回に続く)
取材・文/ 髙橋実帆子(Cue powered by Waris編集部) 撮影/工藤朋子
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