フリーランスジャーナリストとして、女性のキャリアやダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスなどをテーマに活躍する治部れんげさん。

Waris共同代表の田中にとって治部さんは、以前記者として勤務していた会社の先輩にあたります。

治部さんがなぜフリーランスという働き方を選んだのか、フリーランスに求められる能力や資質とはどんなものか、かつての先輩・後輩でもある2人がじっくり語り合いました。

日本では、会社に勤めながら「時間や場所の自由」を確保することが難しい

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和田中美和 私たちWarisは2013年以来、人事・広報・マーケティングなど総合職のフリーランス女性と、企業のマッチングを手がけてきました。時代に後押しされ、少しずつ認知度が高まってきているものの、フリーランスと言うとまだクリエーターのイメージが強く、文系総合職の方がフリーになるための情報が少ない、ロールモデルがいないなどの問題があることを感じています。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさん治部れんげさん(以下、敬称略) 確かに、官公庁や一般企業で働く総合職の方と話していると「私たちは組織にいれば仕事があるけれど、フリーになったら需要がない」とおっしゃることが多いですね。でも、有能な方であれば、マッチングさえうまくいけば仕事はあるはず。

特に30代後半くらいのキャリア女性が、育児など家族のニーズで働き方を変えたいと思ったとき、日本の会社はまだ働き方の柔軟性が不十分なので、「会社から会社へ」転職するのではなく、「会社員からフリーランスへ」転身するという選択肢はありだと思いますね。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
れんげさんご自身も、日経BP社の記者としてご活躍後、フリーランスになられたのですよね?

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさんはい。日経BP社はとても自由で働きやすい会社だったのですが、子育てとの両立を考えたときに、そもそも「毎日会社に行って週40時間働く」という働き方に限界を感じたのです。2人の子どもたちを育てながら無理なく仕事を回そうと思ったら、平日日中は週30時間くらい仕事をして、あとは夜子どもが寝た後に作業をしたり、講演などの仕事が入れば休日も出勤する形で、ちょうどバランスがとれるかなと。

 

ただ、フルタイムではなくパートという勤務形態を選ぶと、日本の一般的な企業では、仕事の内容が総合職的でない、いわゆるサポート業務になってしまうのですよね。お給料に関しても、総合職の場合はパフォーマンスと報酬が結びついている場合が多いですが、サポート的な業務内容だとその部分が見えづらいという問題にぶつかりました。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
当時のれんげさんは、「時間の自由」や「場所の自由」を大切にしたかったのですね。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさん
そうです。でも、私のニーズに合った働き方を受け入れてくれる企業が本当に見つからなかった。そのころWarisがあれば、私も登録したと思いますよ(笑)

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさん

経済ジャーナリスト 治部 れんげ

1997年、一橋大学法学部卒業。日経BP社の記者として、16年間、経済誌の企画、取材、執筆、編集に携わる。2006年〜2007年、フルブライト客員研究員として、米ミシガン大学に留学。『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(2009年、勁草書房)を執筆。2013年4月より昭和女子大学現代ビジネス研究員。

最近の執筆に、日経DUAL「怒れ!30代。」(http://dual.nikkei.co.jp/list.aspx?rid=1463

Yahoo!ニュース個人の「治部れんげ 次世代中心主義」

https://news.yahoo.co.jp/byline/jiburenge/)など。

アメリカの子育て支援制度は、日本よりもはるかに手薄い

経済ジャーナリスト 治部れんげさん10年ほど前、1年間アメリカに留学し、共働き家庭のワーク・ライフ・バランスについてインタビュー取材をしたことがあります(※注1)。当時、アメリカの合計特殊出生率は2.1(※注2)。これは北欧並みの数字です。

 

北欧では、子育て支援にたくさんの税金を投入することで女性が子どもを産み育てながら働けるシステムを作っていますが、これには社会的コストがかかります。もし日本で北欧並みの子育て支援を実現しようとすれば、消費税が上がることを覚悟しなければなりません。日本では、その部分の合意はないですよね。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
なるほど。「育児に関する公的サービスを充実させてほしい」、一方で「税金が上がるのは困る」という主張は矛盾しているのですね。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさん
はい。その点アメリカがどうかと言うと、実はアメリカの育児支援制度は、他の先進国に例を見ない手薄さなのです。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
にもかかわらず、2人以上の子どもを持つことが一般的だったのですか?

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさんはい。アメリカでは、州によって例外はありますが、産休・育休の間は基本的に無給です。そのため、産後数ヶ月、数週間で仕事に復帰する女性が少なくないのです。日本の常識から考えると体が心配になりますが…

それでもアメリカでは、マネージャーの半数が女性です。日本では課長が10人いたら、そのうち1人がようやく女性というところですが、アメリカでは10人中5人が女性という状況ですね。「女性活用」という点で言えば、まったくレベルが違うんです。

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和

日経ホーム出版社・日経BP社で約10年編集記者。特に雑誌「日経ウーマン」で女性のキャリアを広く取材。調査・取材で接してきた働く女性はのべ3万人以上。女性が自分らしく働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスを経て、2013年ハイスキル女性と企業とのフレキシブルなお仕事マッチングを行う株式会社Warisを共同設立。共同代表。著書に「普通の会社員がフリーランスで稼ぐ」がある。

http://waris.co.jp

時間や場所ではなく、成果に対して報酬を支払えば、女性は仕事を辞めなくなる

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
その違いはどこから来るのでしょうか。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさんそれはアメリカの企業が「フレキシブルワーク」を基本にしているからだと思います。10年前の日本で女性活躍を推進する方法と言えば、「育休を延長する」「時短勤務ができる期間を長くする」など、女性が家庭にとどまる時間を増やすことで仕事を続けられるようにするという発想でした。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
「休ませてあげる」「負担を軽くする」という考え方ですよね。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさんそうなんです。でも、それって実は、「活躍」とは逆の方向性なんですよね。アメリカでは、会社に時短勤務制度があっても、使いたくないという人もいます。その代わりにどうするかと言うと、いったん仕事を抜け、子どもの世話をして戻ってくるというように、会社と家を行き来するわけです。結果さえきちんと出していれば、企業側も何も言わない。もちろん男性もフレックス制度を使って育児を分担します。

 

日本でも「イクメン」「男性育休」などという言葉が聞かれるようになり、とてもいいことだと思いますが、それもやはり「仕事を休ませる」ことがメインになっているんですよね。そうではなく、性別にかかわらず、どこで仕事をしていても、パフォーマンスが出ていればそこにしかるべき報酬を支払うというシステムが、アメリカの高い出生率の背景にあるのではないかと思います。

 

株式会社Waris共同代表・キャリアカウンセラー 田中美和
日本では、パフォーマンスに対して報酬を支払うというマインドがなかなか根付きませんね。

 

経済ジャーナリスト 治部れんげさんたとえば柔軟な働き方を取り入れている先進的な企業を見ても、「それで本当にだいじょうぶなの?」「どこか別のところで縛っているんじゃない?」と思ってしまう。つまり、「時間や場所の縛りがなければ人は働かない」というマインドセットのままなのですね。やる気と能力がある人よりも、会社にいる時間が長い人の方が評価されるので、出産前にバリバリ働いてきた優秀な女性ほど、バカバカしくなって辞めてしまう。日本企業はそんな状況ですから、総合職の女性が自分のキャリアを戦略的に考えたとき、フリーランスを選ぶのは合理的な選択だと思いますね。

治部れんげさんの最近の活動

フリーランスジャーナリストとして多方面で活躍される治部れんげさんの、活動の一端をご紹介します。3月には、外交・安全保障、経営、法律の専門家と共に、内閣官房の企画で訪米。テキサス(ヒューストンとサンアントニオ)、フロリダ(マイアミとその近郊)で、大学・商工会等の方と意見交換したり、日本に関する講演をされたそうです。

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フロリダの森上博物館・日本庭園のシアターで治部さんが行った講演の様子(3月25日)

※注1 治部さんの研究成果は『稼ぐ妻・育てる夫 夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)という本にまとめられています。

※注2 2014年、アメリカの合計特殊出生率は1.86。日本は1.45。

 

(第2回に続く)

取材・文/ 髙橋実帆子(Cue powered by Waris編集部) 撮影/工藤朋子

 

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