在宅勤務、リモートワーク、副業などの新しい働き方が、日本でも少しずつ広がりつつあります。海外では、どんな働き方が一般的なのでしょう? 今回は、イギリスの事例をご紹介します。

 

プライベート優先!が当たり前

今をさかのぼること15年前、私はロンドン郊外にある大手食品会社で、社会人としての第一歩を踏み出しました。イギリスで留学生として暮らしたことはありましたが、会社員としてイギリス社会を見るのは、それまでとはまた違った体験でした。

 

私はマーケティング部に配属され、最初に各部署の部長からそれぞれの仕事についてのオリエンテーションを受けることになっていました。初仕事の日、オリエンテーションの日程調整をするために、直属の上司(男性)と各部署を回っていたときのことです。

 

ITの部署で、私の上司からある日時を打診された部長の女性は、こう言いました。「その日はプライベートの用事があってダメなのよね。仕事のことだったら融通するんだけど」。

そして、それを聞いた上司も、「プライベートじゃ仕方ないね、別の日にしよう」と答えたのです。仕事よりも私用優先、そしてそれが「当たり前」であることを認識させられた、最初の出来事でした。

 

その上司は私が入社して間もなく結婚し、女の子が生まれました。その際、2週間のパタニティー・リーヴ(Paternity Leave)という休みを取りましが、これは子供が生まれたときに、父親の権利として取得できる休みのことです。母親の産休や育児休暇ほど一般的ではないようですが、男性も父親としての休みを取ることが認められているのだとそのとき知りました。

 

会社が個人の事情を理解し、社員はやる気で応える

その後、私は輸出部のマーケティングに異動になりました。私の勤務先は本社のままでしたが、輸出部の営業の社員たちは、商品を輸出するアジア、南米、アフリカ、北ヨーロッパなどの担当地域やその近隣の国に住んでいて、本社に来るのは年に1、2回でした。ほとんどの人は自宅をオフィスにして仕事をしており、中には副業を持っている人(ワインのディーラーや、DJなど)もいるという、自由度の高い部署でした。

 

その中に、ケニア在住のイギリス人女性がいました。もともとは本社の購買部にいたのですが、夫がケニアに転勤になり、一緒に行きたいが仕事も辞めたくない…と人事に相談したところ、現在のポジションに異動させてもらえたそうなのです。そのとき、彼女は既に50歳を超えていました。

 

話を聞いたときには、新たな土地で新たな職種にチャレンジする彼女も彼女なら、それをやらせてしまう会社も会社だと感心してしまいました。

 

この会社が特別に自由な会社だったのだとは思いますが、国籍の異なる社員が多くいたためか、さまざまな違いを受け入れ、認め合うという精神が根付いていた気がします。会社が個人としての事情や状況を理解し、柔軟に対応してくれるから、社員もやる気で応える、そんな良い循環が行き渡っていたように思います。

 

父親だって家庭優先、リモートワーク

次にご紹介するのは、現在ロンドン中心部のコンサルティング会社に勤務するイギリス人の知人男性の事例です。

彼が住んでいるのは、イギリス南部に位置するブライトンという街で、会社へは車と列車で1時間半かかります。もともとはロンドン市内に住んでいましたが、子供が生まれたのを機に、より安全で緑が多く、子育てに適した土地に引っ越しました。しかし、結果として通勤時間が長くなってしまったため、彼は働き方を変えることにしたのです。

 

まず、彼が会社に行くのは、原則月-木の週4のみ。金曜日は家で仕事をしています。出社する日も、会社にいるのは9時-5時までで、同僚は彼がどの列車に乗るために、何時何分に会社を出るかということを把握しているのだそうです。彼が参加するミーティングは、彼が社内にいる曜日の時間帯を選んで組まれるそうです。

 

行き帰りの列車ではもちろん仕事を続けますし、帰宅しても家で残業にあたることは多々あるそうですが、会社で拘束される時間を制限・限定することで、家族と過ごせる時間は確実に増えました。

 

こうした形で働くからといって、本人の雇用がおびやかされることも、昇進やボーナスに響くこともないそうです。なぜなら、こうした選択をする社員は彼だけではないし、仕事の効率が下がるわけでもないからです。

 

そして、あえて付け加えるなら、彼の奥さんは専業主婦だそうです。つまり、彼がこうした形で働か「ねばならない」理由はありません。彼が自分でこのような働き方を選び、会社も受け入れたのです。

 

やるべきことをやれば、働き方は自由

イギリスでは、職場において「やるべきことをやれば、それでいい」という意識が共有されているように思います。どこで、どんな形で仕事をしたとしても、終わらせるべき時間までにやり終え、誰にも迷惑をかけないのなら、誰も文句を言いません。

 

そして、仕事は「生活する手段」と割り切る人が大多数です。自分の生活(家族、プライベートライフ)が第一で、それは仕事に侵害されるべきものではありません。

仕事より家庭の優先順位が高かったとしても、仕事ができていればそれでOK。家庭が大事だと言っても、それで仕事を蔑ろにするわけではないのですから。

 

個人主義と言えばそうですが、個々を尊重することで、集団としての機能を向上させることを目指すのが、イギリス式の働き方なのだと思います。

日本とイギリスでは環境が異なる部分もありますが、「仕事ができていれば働き方は自由」という考え方は、日本の働き方改革を進める上でも大きなヒントになるのではないでしょうか。

 

文/ライター 野澤美帆

 

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