2015年9月、東京・神保町の一角に、カウンター12席の小さな定食屋さん『未来食堂』がオープンしました。

事業計画書の公開、50分のお手伝いで1食が無料で食べられる「まかない」、おかずのオーダーメイドができる「あつらえ」など、前例のないシステムで飲食業界を驚かせた経営者の小林せかいさんは、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017【食ビジネス革新賞】」を受賞。

そんなせかいさんと、Waris共同経営者の河は、実は中学・高校時代の同級生です。長年の友人として互いのキャリアを見つめてきた二人が、「自分のキャリアを自分で切り拓く」というテーマで語り合いました。
今回はその第3回目です(全3回)。
・第1回 IBM、クックパッドのエンジニアから食堂経営へ、異色の転身
・第2回 仕事も家庭も、完璧を目指さない

他者からの評価で自分を計っていると不安に陥りやすい

顔アイコンkawa河京子(以下、「河」)

今世界中でも「インポスター(詐欺師)症候群」に陥っている女性がとても多いと言われている。人から「優秀だね」と言われると、「本当は、自分はそんなに優秀じゃないのに」と、まるで自分が周囲を欺いているように感じてしまう。それだけ自己評価が低いんだよね。

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小林せかいさん(以下、「せかい」) 「詐欺師」とまでは思わないけれど、その気持ちは分かるなぁ。未来食堂をオープンして以来、さまざまなメディアの取材を受けるようになり、自分は世間で言われているほどすごくないと感じることがあるので。

 

フリーランスとして一人で仕事をしていると、日常的に誰かに褒められるわけでもないし、時には一日誰とも話さない日があったりする。どうしても確実にこなせる仕事を引き受けるようになるので、自分から意識しないとチャレンジする機会をつくれない。

時間や場所の自由さの反面、他者からの評価で自分の価値を計ってしまう人にとっては、不安に陥りやすい面があると思うんだよね。

未来食堂 小林 せかい/東京工業大学理学部数学科卒業。日本IBM、クックパッドでエンジニアとして勤務した後、さまざまな飲食店での修業を経て、2015年9月、東京都千代田区一ツ橋に『未来食堂』を開業。事業計画書や毎月の売上をすべて公開する「オープンソース化」や、50分のお手伝いで1食が無料で食べられる「まかない」など前例のないシステムで飲食業界に革命を起こし、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017【食ビジネス革新賞】」を受賞。http://miraishokudo.com/

「褒められる」ことは雑音のようなもの

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人の評価って、本当に移ろいやすいものだと思っていて。学生のころ、私が学園祭で開いた喫茶店が好評だったことは既に話したよね。その学園祭の後、学食で一人で食事をしていると、急に人が話しかけてくるようになって。それまで変わり者扱いだったのが、突然歓迎モードになったのが全然嬉しくないどころか、むしろ怖かった。

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「自分が好きだからいい」というのではなく、「みんながいいと言っているからいい」というね。自分で判断することを忘れてしまっている。

 

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「世の中でいいと言われていることだからやろう」という基準で行動していると、人の評価は簡単に変わるので、当然自分もぶれてしまう。だから私にとって、「褒められる」ことは雑音のようなものだと思っている。

 

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せかいはさまざまなメディアで取り上げられ、ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞して、一見キラキラ輝いているように見える。でも、未来食堂がオープンするまでの過程をつづった『未来食堂日記』を読むと、キラキラしたことばかりじゃない。肉体労働が続けば疲れるし、うまくいかないことがあれば不安になる。人間くささや揺らぎを含めて全部見せているということが、多くの人の共感を集めているんだろうね。

顔アイコンsekai2共感はあくまで結果であって、共感を得ることを目的にしていたらしんどいだろうね。私は、明日いきなり世の中が未来食堂バッシングに傾いたとしても、いつも通り店を開け続けると思う。「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」が、本当に必要だと信じているから。今回、ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞したけれども、「明日はバッシングされるかもしれないな」と思いながら毎日過ごしてるよ。そのくらい世間の声には期待していない。

株式会社Waris共同代表 河 京子/慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業。株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)で、企業と個人のマッチングや、大型採用を行う企業への、採用コミュニケーションプランの立案などを担当。リクルートキャリア在籍中の2013年4月、ハイスキル女性と企業とのフレキシブルなお仕事マッチングを行う株式会社Warisを共同設立。2014年6月にリクルートキャリアを退職し現職。http://waris.co.jp/

キラキラ輝いて見える人も、本当は重さや葛藤を背負っている

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河さんは、不安や孤独を感じて「もうやめてしまいたい」と思うことはないの?

 

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もちろんそういうときもあるよ。でも、私の場合、仲間がいることが大きいかな。Warisは3人で起業したんだけど、3人でなければできなかったし、今は20人のメンバーがいて、何より3千人を超える登録者の方たちがいる。「裏切れない」という思いが、心地よいプレッシャーになっているかな。

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それは大きいね。

 

顔アイコンkawa2でも、一人で決断して、一人で続けていかなければならない環境にあるフリーランスや、経営者の方は少なくない。気持ちの波がある中で、落ち込んだときもせかいが「今日も店を開けよう」と思う、その原動力になっているものは何なの?

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「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を未来食堂から広げていくことが私のミッションだと思っているので、そのためにはある程度の重さを背負うこともやむを得ないかな、と。

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誰もがありのままに受け入れてもらえる、未来食堂のような場所がどんどん増えていくことが、せかいの目指すところだもんね。

 

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そう。定食屋としてそこそこ成功するためなら、本当はこうしてメディアの取材を受ける必要はないからね。宣伝になると言っても、12席の店が突然120席になるわけではないし、その効果はたかが知れてる。メディアに取り上げられれば、好意的なお客さんだけでなくバッシングも増えるし。

それでも、取材を受けることで、「受け入れられる場所」を必要とする人や、未来食堂をさらに進化させてくれる誰かに届くかもしれないという思いで、こうやって私の思いを話すことにしてる。

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まだまだ語り足りないけど、たくさん語ったね。今日は本当にありがとうございました。最後に、Cueの読者に向けてメッセージをお願いします!

 

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一見、キラキラ輝いているように見える人でも、本当はその分、重さや葛藤を背負っているものだと思います。だから、メディアに登場する「明るく前向きで、家事も育児も仕事も完璧」というような女性像と自分を比べて焦る必要はありません。「正解」はひとつではないし、すべて完璧な人なんて、現実には存在しないから。辛かったら周りの人に頼ればいいし、ごはんがなければレーズンパンを出せばいい。「常識」の外に踏み出すこと、笑われることを恐れず、自分の信じる道を、自分のやり方で歩いていけばいいのではないでしょうか。そうは言っても難しいですが。ねえ河さん?

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ほんまやねー。私なんてついつい人と比べて卑屈になっちゃう性格だし。でも開き直りが早いのが利点かもしれない。

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確かに。さっき掻き込んだカレー弁当、白いブラウスに飛んで落ち込んでたけどもう気にしてなさそうだし。

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それは気にしてるで(笑)

 

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カッコ良さそうなこんな対談も、600円のカレー弁当食べながらだしねえ。キラキラ輝いて見える人も案外そんなものだよね。

  (了)

取材・文/ 髙橋実帆子(Cue powered by Waris編集部) 撮影/工藤朋子

 

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